on the shore

ベカラズ

今年もその日はやってきた。日付がくり返される回数に比例して記憶は薄れていく。薄れたところで元々何かがあったわけではない。誰かの記憶を自分のものにすることなどできないのだ。わたしはそこにいなかった、それだけのことだ。 同様に、わたしは間違いな…

轍と塩

書店の大きな本棚の前で、いつものように苦しくなっていた。まともに本を読むことができなくなってから1年以上が経過している。部屋の隅には、読めないくせに買い集めた本が山積みになっており、そのイメージが脳裏をかすめたが、それでも何冊かを手に取り、…

2011

黒い濁流に押し流されていく町を、画面のこちら側で何度も見ていた。人で溢れかえる都市の駅に映像が切り替われば、そこには絶対に映らないであろうその人の姿だけを探した。結局は自分が満たされることだけを考えている。満たされることなどないと知りなが…

どこにも行けない旅の話

どこに出かけて行ってもどこにも行くことはできないし、誰と会っていても誰にも会えないのだ、じっとしているとそんなふうに思えて仕方がない。それでも朝早く長距離バスに乗り、音のないイヤホンで耳を塞いだ。何度同じことを繰り返しても何も変わらない。…

心拍数

明け方、大きな背中に耳を当て、心臓の音を聞いていた。伝わってくるその鼓動が間違いなくそのひとのものであることを確かめるために、自分の手首の脈に触れる。このリズムがぴったり重なることが決してないように、わたしたちは同じものにはなれないのだと…

渇愛など

好きな人を思うとき、憎悪の対象が増えるというのは、やはりあまりよい状態ではないのだと思う。 自室の壁を撮った写真をもらったので、PCの壁紙にした。 決して動くことのない時計を眺めている。

本当のこととか嘘だとか

本当のことが知りたいと思う。あれこれ想像をたくましくして勝手に苦しくなって、それがいつまでも続くのなら、いっそ真実に殺されてしまいたい。しかし残念なことに、何が本当なのかを確かめる術を持たない。 などという考えがここ数ヶ月頭から離れなくて、…

他者の中で生きようとするから苦しいのだ、そんなふうに思った

自己と他者は別ものなのだから、そうやって無理をしていれば苦しいのも当然なのだ。うまくやっていけるひとは、もしかしたら、それをちゃんと認めることができるひとなのかもしれない。 じゃあどうすればいいかな、そんなに器用じゃないよ。

いつも楽しそうにしている人たちを見ていると、随分遠いな、と思う。わたしだって笑うことはある。でも何か違うと思いながら笑っている。仕方なく笑うことも多い。本当にうれしくて笑うためには、どうしてもひとつ条件があった。 悲しさや苦しさを持っている…

オオカミの不在

うそつきといわれて、それは違うのだけれど、ある意味ではそれは正しい、と思う。相手がわたしに嘘をつかれて、そしてそれでひどく傷ついた結果「うそつき」と呼ばれたのだろうけれど、実際思い当たる節はない。あなたに対してわたしは何か嘘をついたかしら…

ハンモックの犬

愛されることも憎まれることもそれほど大した差はないのだとふと思った。相違点を挙げるとするならば、愛されればわりといい気分でいられるし、憎まれればあまりいい気分にはならない。 何もかもあきらめて無気力になった、ハンモックに吊るされた犬みたいな…

圧倒的な事実を以て全否定してよ

言葉にはしないけれどぼんやりと思っていることがある。それはたぶん正しいか、あながち間違いではないのだと思っている。 あえて言葉にしていなかった漠然とした思いを、ゆっくりと形にする。できあがった形を言葉にして、誰かと答え合わせをしたい。答え合…

「幸せになってください」

誰かに「幸せになってください」と言うとき、その人は何を思うのだろう。その人は、自分の得られなかった「幸せ」を、誰かに託したいのかもしれない。 でも多くの場合、彼らはその結末までを見届けたりはしない。

依存、あるいは気づかないということ

依存というのは、自分で気づいてしまったらアウトなのかもしれないと思う。呪いを一瞬でも信じたら、その呪いから絶対に逃れられなくなることに似ている。気づかなければ、依存から脱しなければと思わなければ、幸せに破滅していける。

コピー

コピー機が詰まったという彼の話を読んでいると、FAXが紙詰まりをおこしたことを知らせる警告音が聞こえた。機械を開け紙を取り除き蓋をして、正常に動作するかの確認をせずにその場から離れた。 帰り道などとうに失くしてしまったのに、まだ探している自分…