questions

 

 誰かにとってとても大切な過去が、時間も場所も全部追い越して全くそれに関わっていない別の誰かを傷つける。おそらくは勝手に傷つくだけなのだろうけれど。逆はあるのだろうか。
 
 見知らぬ人の背中がふと目に留まり、誰かのことを思い出す。思い出したのは、その背中が特別誰かに似ていたわけではなく、ただ生きてたときの年齢がその背中の年齢と同じくらいだったからなのかもしれない。ああもういないのか、とぼんやり思う。
 その人はわたしにとってとても重要な人ではあったけれど、特別好きだとか嫌いだとか、そういうはっきりとした感情は持っていなかった。重要であることと大切であることは違うのだろうか。違うのかもしれないな。人が死んでしまうことはかなしく、さびしいことにはかわりがないのだけれど。
 
 朝出かける前に見た薔薇は、つぼみがふくらんでほんとうにもうすぐ咲きそうだったのに、夜見てみるとそのつぼみはどこにもなかった。首のあたりからはさみかなにかですっぱりと全て切り取られていたのだった。時々誰かが嫌がらせをするのだと、植えた人がいつか話したことを思い出した。また誰かに切り取られてしまったのだろうか、それとも誰かに切り取られる前に植えた人が切り取ってしまったのだろうか。水を遣ったばかりなのか、土が黒く濡れていた。