2013-01-01から1年間の記事一覧

笑う

話さなければ伝わらない、話しても伝わったかどうかわからない、恐らくは伝わらない、伝わっても黙殺される、そんな絶望と恐怖を相変わらず繰り返して、それでもふらふらとベランダの柵を越えてしまわぬように、何事もなかったかのように毎日笑う。

つらいことはないですか、と尋ねそうになった。自分のことでいっぱいなのに、誰かを助けることができるなんてとんだ思い上がりだ。第一、つらいことの中にいたとしても、何もないよありがとうと、笑顔で言われるだけなのだ。こうしてますます黙り込んでしま…

話す

話すことが苦手だ。それでも誰かがそばにいれば話をする。

距離

その後のことを聞かれたので、咄嗟に、何も変わりませんよと嘘をついた。テーブルの向こうでにこにこしている人の、それはよかったという声をぼんやりと聞いた。本当のことを言う必要がないように、嘘などつく必要もなかった。本当のことを言えばよかった、…

石を投げる

川の真ん中にある大きな岩をめがけて投げた小石は、大きく右にそれた。3回投げて1回でも岩の上に乗ったら願いが叶う、という3個100円の小石は、青みがかったすべすべしたもので、100円という値段は、小石の洗浄や岩からの回収などの手間賃が含まれるのだろう…

役割

私には好きな人がいて、という短く中途半端な文章が浮かんで、しかしその後には何も続けることができないでいる。 大丈夫ですと答えたところで、憂慮するほどではないにしても大丈夫ではないことぐらいは見透かされているのだろう。いつの間にか担ってしまっ…

目を閉じる

その時なぜ目を閉じるのだろうと時々考える。視覚を無効化することによって他の感覚に集中しようとするからなのだろうと思う。あるいは、自分を騙すためなのかもしれない。両方なのだろうと思っている。 嫌なものは見たくない。今は目を閉じている状態に等し…

返信

やりとりしたメールを削除するとこれまでの関係も記憶ごときれいさっぱり消えたらいいのに、と考えながら削除ボタンをタップする。そうしているうちに新しいメールが届いて、少しほっとしている自分を嫌悪するでもなく返信を書く。正常な感覚が麻痺している…

堤防

堤防の向こうには夜の海が広がっているはずで、高架のはるか上空では雲の隙間から月が海面をぼんやりと照らしているはずだった。コンクリートの頑丈な壁と柱の陰に車を停めて隠れていた。穏やかに海岸に打ち寄せているはずの波の音は、頭上のバイパスを走る…

言い分なら、私にもあるようにきっとそれぞれにもあって、できることなら理解してもらいたいと思っている、というか、理解しろよと思っている。黙っていられたらわからないよ。でも理解してもらいたいと思っている、というか、それくらい理解しろと思ってい…

This can't be love

これは恋ではなくてただの痛み、という歌を聴いている。いつも疲れていて、誰かに寄りかかりたい。すっかり安心して眠りたい。リスクは欲しくない。つらいのも悲しいのももうしばらく要らない。夜になると駄目になる。愛される存在であるはずがない。これは…

嘘と定点観測

一番言いたいことをやはり言えないままドアを閉めた。でもたぶん気がついている。気がついた上ではぐらかしたのだ。こういう人を大人と呼ぶのだろう。少し癪だから、週末は泣いて暮らしますと言ってみた。日曜日にたくさん笑う予定があることは黙っていた。…

ほとんど眠れないままもうすぐ夜が明ける。涼しい風が音もなく窓から入ってくるから、まだ8月なのに9月のつもりでいた。 次の夜には話をする。多分何も変えることができない。夏が始まる頃の決心が、あっさりと流されてしまったように。 いつかもらったばら…

青年

一年ぶりの再会を果たし、喫茶店で小一時間話をした。 僕の知り合いでまともなのはなみさんぐらいですよと彼は言った。何がまともで何がまともではないのだろう。みんないろいろあるよね、と春に誰かが言ったことをぼんやりと思い出していた。私はまともなの…

霧の中は視界約50mほどで、時折前方を走る車の赤いテールライトがぼんやりと光る。自分がどこにいるのかもわからない不安と、ほんの少しの安堵と。 車を降りてもやはりそこは霧の中で、薄暗く白く肌寒い。滑りやすい湿った道を歩く。霧が晴れなければいいと…

これが最善であると判断して同じ方向に二つのことを選択をした。間違ってはいないはずだ。これでいい。これが最善であると判断したのだ。 ある集まりに出席しなければならなくて、仕事のあとで出かけた。何人かの知り合いと話をして、初めて会う人たちによろ…

5月の果て

それができたらこんなに悩んだりしないですよ、と答えながら、実はさして悩んではいないことを再確認する。もしかしたら悩んでなどいないと思い込みたいだけなのかもしれない。でもどちらでもいい。同じことだ。 今年の5月は何故かとても長くて、未だに終わ…

問いかけが何かを問うているとは限らない。 問いかけに必ず返事があるとは限らない。

波までは遠く

連れられて海岸へ行った。さくさくと音を立てて砂の上を歩いていた。風もない穏やかな日で、すぐそこに海があるはずなのに、波の音すら聞こえない。静かな平日の昼下がりだった。ブーツを履いていたので、中に砂が入る不快感はなかった。アスファルトの上を…

"out of sight, out of mind" ですよ。彼女はそう言ってからエンジンを切った。冬の夜が始まる時間で、そこは土砂降りのファミレスの駐車場だった。うん、と答えた。わかっているよ。よく知ってる。でもね、それはただ単に見えないだけであって間違いなく存…

ゆるゆるとした夜の長い坂道を歩いて、ああここは前にも一度来たことがあるなと思った。どのくらい前のことなのかは覚えていない。いつかの冬の日に、地図も持たずあてもなく歩いてここを通り過ぎたのだった。見覚えのある建物の暗がりには、しっかりと抱き…

御機嫌如何

誰のことも信じていないし人の気持ちもあんまり理解できないし誰かを愛するということが実は正直よくわからない、と書いたところで誰かを信じることができるようになるわけでもないし誰かを理解することができるようになるわけでも誰かを愛することができる…

何かひとつ、忘れ物をすればよかった 何かひとつ、忘れ物をすればよかったのに