2015-01-01から1年間の記事一覧

私たちを咎めるように叩きつける雨の中を、車は走る。昨日買ったばかりの傘が自宅にあることを思い出した。鞄の中に折りたたみ傘が入っているから大丈夫だよという穏やかな声を聞きながら、何が大丈夫なんだろうとぼんやり考えていた。大きな溜息をついたの…

これは愛ではない

絶望とはこういうものなのかもしれないと考えていた。「心配だったので電話しました」と一言だけ書かれたメールが届いていた。 着信に気づかなかったのは車を運転していたからだ。車から降りて電話をかける。大丈夫かと問われたので、「大丈夫ですよ」と答え…

跡地

前回来た時に「もうここに来ることはないだろうな」とぼんやり考えていたその建物は、取り壊されて跡形もなく消えていた。更地をざっと見渡して、意外と狭かったんだなと思った。ああ無くなっちゃったんだねという声に、そうですねと答えた。空には灰色の雲…

言えないことは言いたくないことだった。話しても話さなくても辛いことに変わりはない。では正解はどちら。

深々と頭を下げさようならと何度振り切っても別れることができない別れがあれば、またねと手を振ったそれが本当の別れなってしまう別れもある。「そばにいて」と震えながら小さな声でしがみついたのに、それでも自分から離れて行かなければならない別れのこ…

大きな傘が必要ですと天気予報が知らせるから、コンビニで買った70cmのビニール傘を広げた。それなのに、少なくとも私が外にいる時間には、晴雨兼用の日傘で十分用が足りる程度の雨しか降らなかった。これは帰りに荷物になるな、と小さく溜息を吐く。「備え…

「私も寂しい」と答えることができない私に期待しないでほしい

もうやりたいことはやってきたから、いつ死んでもいいと彼女は言った。彼も似たようなことを言っていた。俺はいつ死んでもいい。私がいつ死んでもいいと思う理由とは真逆の理由だ。少し羨ましい。 言いたいことがある。でも言わずに黙っている。私には発言権…

笑顔

嘘の中が心地よくて、悲しかったことも苦しかったことも忘れてしまいそうになる。憎悪が痛みをもって「忘れるな」と警告する。その本当に嬉しそうな笑顔を見せるのは私だけではないし、その優しい言葉も私だけにかけられるのではないのだ、彼らにはもっと大…

距離や時間が育てるのは愛だけではない。行き場のない感情は膨れ上がるばかりで、そうして増幅した感情は、愛だろうが憎悪だろうが、とても厄介なものだと考えている。 あの人が生きていること自体許せないと呟くと、「それはいけない」と優しく諭された。そ…

誰とも争うことはないけれど、誰を憎む根拠なら、それを根拠と呼ぶのなら、あるのかもしれない。あなたは自分しか愛さないのだと自分すら愛することのできない私が言い放つ。私はあなたのなんですかとあなたが私の何であるのか答えられな私が問い続ける。言…

寂しいよと言われてもその寂しさを受け取ることができない。自分の中の苦しさや悲しさが増幅されるばかりだ。やはり誰にも会わなければよかったのだろう。

対話の欠如が誤解を生み、対話を重ねても軋轢は生じる。誰ともうまくやっていくことができないでいる。なぜいつも笑っていられるのだろう。境界がわからない。 結局、憎悪したぐらいでは離れることができなかった。憎悪もひとつの繋がりだったようだ。

待ち合わせの場所に花を持って現れる。ドライブに誘う。食事に誘う。髪を切るたびに「似合っている」とこっそり伝える。くだらないことを言ってくすっと笑わせる。スーツがよく似合う。いつも近くにいる。20年ぐらい前だったらよかったのにと思う。それくら…

クレープでもいきましょうよ

雨の夜に髪を撫でられながらひとしきり泣いて、ほっとするような女にはなりたくなかった。誰もいなければいないでそれなりになんとかできるはずだった。でも誰かに寄りかかる時間が必要だと思ってしまった。呼び出すことができる立場でもないくせに、唯一思…

隠すことによって現れるものがある。隠そうとすればするほどおもてに出てくるから、隠蔽する必要性に気づいてはならないのだろう。

視点

狡猾なのかただの寂しい人なのか、たぶん後者であろう人を、「あいつは焦っている」と評した人がいて、長い間見ている人からしたらそう見えるのかと思う。長い間、もっとそばで見ている人からしたらどうなのだろう。なんとなく想像することならできる。 どう…

地下鉄

エスカレーターをいくつも乗り継いで深く深く降りていく。地下鉄の中は夜よりも暗い。喪の作業は続く。早く終わればいいのにと思う。終わらないのかもしれない。