子ども

 
 手術室へ繋がる自動ドアが目の前で閉まり、ぽつんとひとり取り残された。周囲には誰もおらず、何の音も聞こえなかった。急に心細くなって涙がこみ上げたから、自分で驚いた。私は、小さな子どもになっていた。
 
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 変なことを考えちゃだめだよ、と忘年会の帰り道で言われた。変なことって何ですか、と聞き返したが、返事はなかった。酔っていたから、それ以上何も言わなかった。でも、考えようが考えまいが現実は常にここにある。考えるなと言う人はただ逃避しているだけだ。そんなことを思いながらも、考えるなと言われた私もふらふらと酔った足で逃避に便乗する。逃避に便乗するのは、心細いからだ。時々とても心細くなる。安心したいと思う。まるで子どもである。
 
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 まるで子どものようだ、というのが私の名前である。そんなに卑下するな、と言った人がいた。卑下している訳ではない。時々子どもになる。なかなか強くなれない。