跡地

 
 前回来た時に「もうここに来ることはないだろうな」とぼんやり考えていたその建物は、取り壊されて跡形もなく消えていた。更地をざっと見渡して、意外と狭かったんだなと思った。ああ無くなっちゃったんだねという声に、そうですねと答えた。空には灰色の雲が広がっていたが、雨が落ちてくる気配はなかった。夕方の更地は、余計に寒々しく見えた。
 一度なくなってしまったものが再び元の通りに戻ることはない。戻ったように見えたとしても、それはただ似ているだけで、別のものだということを忘れてはならない。