髪を切ってもらっている間に、どういう訳かマニキュアを塗ることになった。何年ぶりかもわからないほど久しぶりに塗るマニキュアは、驚くべきことにゴールドのラメだ。ハンドクリームをさぼりまくっている荒れた手にはまるで似合わない。それでも一通り塗った。2度塗りまでした。「ネイルキメてパソコンなんか打ったら、絶対気分上がりますよね」と私の髪を整えながら彼女は笑った。
 翌日、除光液を買うついでに、ベースコートとピンクベージュのマニキュアを買った。帰宅後、ゴールドのラメを落とし、手を洗い、念入りにハンドクリームを塗った。トップコートを買い忘れていることに気がついた。指先だけ飾っても意味なんかないよなと思った。それでもほんの少し気分が良くなっていた。単純である。
 
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 慌ただしい日々から解放されたのは少し前のことだ。こんなにのんびりできるのはどのくらいぶりなのだろうと、大きく伸びをした。こんな時こそ行きたい場所があるのに、出かけられなくなってしまった。私は忙しくないと何もできないらしい。0か100しかない人だねと言われたことを思い出した。もう少し経ったらまた忙しくなる。それまでのこれからを、どうしようか。