ベカラズ

 
 今年もその日はやってきた。日付がくり返される回数に比例して記憶は薄れていく。薄れたところで元々何かがあったわけではない。誰かの記憶を自分のものにすることなどできないのだ。わたしはそこにいなかった、それだけのことだ。
 同様に、わたしは間違いなくそこにいた。けれどそこにいたと主張したところで黙殺されるだけなのだ。そこにいなかった人々に、わたしがそこにいたという記憶を、誰かの言葉を使って押し付けることはできない、それだけのことだ。