飛行機雲がほどけるのを眺めていた

 

 今更どうすればよいのか、と言われれば何も言えなくなる。過去を変えることができないなんてことは知ってるし、だいたいそういうことが言いたいんじゃない。じゃあ何が言いたいと問われてもやはり何も言い返せない。どんなふうに言えばいいのかわからないからだ。たぶん目の前にあなたがいなくなった何年もあとになってからでないとわからないのだろう。いつもこうだ。言いたいことはずっとあとになってからしか出てこない。そしてそのとき伝えたい相手はもうどこにもいない。
 夕暮れの、まだ青が残る空に一筋の飛行機雲が見えた。信号待ちの間、それがゆっくりとほどけていくのを眺めていた。新しい右往左往の最中に叫んだ彼女の声が耳について離れない。