嘘と定点観測

 
 一番言いたいことをやはり言えないままドアを閉めた。でもたぶん気がついている。気がついた上ではぐらかしたのだ。こういう人を大人と呼ぶのだろう。少し癪だから、週末は泣いて暮らしますと言ってみた。日曜日にたくさん笑う予定があることは黙っていた。ちゃん眠れている?と問われて、はい、大丈夫ですと答えた。
 車が角を曲がるまで見送る。ハザードランプの点滅を数えると、予想通り5回だった。どこまでも大人な人だ、と思った。私はどこまで行けるのだろう。
 
 何年か前から、渋谷駅周辺の写真を撮っている。めまぐるしく変化をしているはずなのに、それほど変化しているように見えない。たぶん撮らなくなったときにその変化ははっきりと現れる。自分の視点なんかどうでもいい。