ほとんど眠れないままもうすぐ夜が明ける。涼しい風が音もなく窓から入ってくるから、まだ8月なのに9月のつもりでいた。
 次の夜には話をする。多分何も変えることができない。夏が始まる頃の決心が、あっさりと流されてしまったように。
 
 いつかもらったばらの花には棘がなかった。しおれて、捨てるときになって初めてそのことに気がついた。ばら園を歩いている時にそのことを話すと、わざわざ棘を抜いて売っていたのかなと言った。いえ、たぶんそういう品種なのだと思います、と答えると、そうか、あ、でもこれは抜いたんだねと、棘の跡が残る茎を指した。通り道だから人に刺さらないように配慮してあるのかな。
 今も時々、棘を抜かれたばらのことを考える。棘の跡はなんだか痛々しい。