堤防

 
 堤防の向こうには夜の海が広がっているはずで、高架のはるか上空では雲の隙間から月が海面をぼんやりと照らしているはずだった。コンクリートの頑丈な壁と柱の陰に車を停めて隠れていた。穏やかに海岸に打ち寄せているはずの波の音は、頭上のバイパスを走る車の音で聞こえない。時折、この閉ざされたような場所をゆっくりと徘徊する車のライトに照らされる。目を閉じていても眩しい。たぶんカップルでも乗っていて、二人きりになれる場所を探しにきているのであろう。考えることは皆同じだ。
 そう同じなのだ。善意を装っているだけで本当は特に関心は持っていない。「いい人」な自分に酔っている。言いたいことだけ言って何もしないくせに、自分だけはあなたを理解しているよなんて顔をして近づいてきて、引っかきまわして悦に入る。鬱陶しい。ますます消耗する。黙って目を閉じる。騙されたふりもする。反論する言葉を探しても声にすることを諦める。精一杯の皮肉を込めてありがとうと言う。早く消えろと強く願う。堤防のつもりなのだ。ほとんど何の役にも立たないけれど。