石を投げる

 
 川の真ん中にある大きな岩をめがけて投げた小石は、大きく右にそれた。3回投げて1回でも岩の上に乗ったら願いが叶う、という3個100円の小石は、青みがかったすべすべしたもので、100円という値段は、小石の洗浄や岩からの回収などの手間賃が含まれるのだろうかと思いながら投げた。願い事は特に思いつかなかった。
 あまりのコントロールの悪さに大笑いされた。そんなに笑うことないじゃないですかと抗議した。隣から投げられたふたつ目の石が岩の向こうへ大きな弧を描いて落下したから、ひとのこと言えないですねえと笑ってみせた。じゃあ最後、投げていいよ、と言われて投げた石は、岩に届くことなく落下した。願い事はやはり思いつかなかった。願い事なんか最初からなかったのだ。