嘘つき

 
 「愛している」という言葉には私も愛していると答えていた。時々は自分からも愛していると言ったりもした。そして、愛していると言葉にするたびに、私は誰のことも愛していないのだということを確認する。たった一度でいい、本心から「あなたを愛している」と伝えたいと思う。しかしそんな時が来ることはないだろう。私が思ってもいないことを口にするのは、ひとりぼっちになるのが怖いからだ。
 嘘つきは嫌いだと思っていたけれど、それは間違いだった。上手な嘘なら嫌いではない。それは絶対に露顕しない嘘という意味ではなく、見え透いた嘘でも、上手な嘘ならいい。下手な嘘つきが嫌いだ。
 「好きだよ」という低い声に、愛を持ち出さないあたり、この人は正直だし、上手な嘘つきだなと思う。
 
 時々嘘をつく。嘘をつくのは面倒だ。それなのに出まかせばかり並べている。もう誰とも話したくない。