ふわふわ

 彼女の手は、とてもふわふわで柔らかかった。少し苦しそうに呼吸をする彼女の手を握って、ああそうだ、この手だ、このふわふわの手だ、いつか触れた時もこんなふうにふわふわだったと考えていた。ちっとも変わらない、温かくて可愛らしいその手を撫でながら、何度も名前を呼んだ。彼女の目にうっすら涙が浮かんだ。がんばってえらいね、と訳のわからない言葉が口に出た。コウペンちゃんっすね、といつもの声で笑って答えてくれたらいいのにと思った。

 帰り際、またね、と声をかけた。本当は「早く良くなって、絶対また戻ってきてね、みんな待ってるよ」と言いたかった。そんなことを言ったら苦しめてしまうかもしれないと思った。言ってもよかったのかもしれない。でも、またね、と声をかけるのが精一杯だった。それが昨日。

 

 今日も会いに行った。昨日の苦しそうな表情はもうなくて、ただ眠っているようにしか見えなかった。起きて、ねえ、起きてと肩に触れてみた。ぱちっと目を開いてにっこり笑ってくれそうな気がした。実際、微笑んでいるようにも見えた。優しくて可愛くて、弱音なんか絶対吐かない、本当に強い人だった。がんばったね、本当によくがんばった。あなたのことが大好きだよ。

 しばらくの間、手を握って撫でていた。ふわふわの手はまだほんの少し温かかった。