思いつく限りの可能性を一面に並べて、一番見たくないものは見ないふりをしてしまう。事実がどうであれ、自分の視点から見ることができるものには限りがある。どこまで行ってもどこへも行けないことはわかっていても、それでも、やはりどこかへは行かなければならないらしい。さて、どこへ向かおう、どうしよう。

手を離す

 手を離すことが難しい。そこまで執着しているつもりではなかったことでも、今になってどれだけ執着していたか思い知らされる。それだけ思い入れがあったということなのだろうし、これだけ苦しく思うのは、私が自分から手を離す側ではないからなのだろう。

何かいいこと

 
 ひどいことが続いたせいで、参っている。本来なら休みのはずの日の昼休みにかかってきた、嬉しそうな声の電話も、別の世界から私ではない誰かにかけた電話のように思えて、何を話しているのかよく理解できなかった。
 何をやってるんだろうなあとぼんやり考えていた。私にだって、少しぐらいいいことがあってもバチは当たらないのではないか、と時々思う。
 
 翌日、何年かぶりに会った人と食事をした。短い時間だったけど、すごく嬉しかったし楽しかった。こんな「いいこと」はまたしばらくないのだろうなと少し苦しくなった。  嬉しかったことや楽しかったことを糧に、日々を生きていくことは難しい。おそらく、「いいこと」には中毒性があるのだろう、などと考えている。小さな「いいこと」はきっと、日々の中にあったはずだし、これからもあるはずなのに。