どこにも行けない旅の話

 
 どこに出かけて行ってもどこにも行くことはできないし、誰と会っていても誰にも会えないのだ、じっとしているとそんなふうに思えて仕方がない。それでも朝早く長距離バスに乗り、音のないイヤホンで耳を塞いだ。何度同じことを繰り返しても何も変わらない。日々流されるだけで、最後には一体どこにいるのだろうとぼんやり考える。誰もぼくを愛さないんだと叫んだ子どもと愛しても届かない絶望を抱えた双子の片割れのことをいつも思いだす。その子どもも双子の片割れもわたしだしわたしではない。気に入らなければさっさと橋を渡ればいいんだ。
 休憩で降り立ったサービスエリアでは、段差に気づかずに足を挫いた。出かけたら帰らなければならないにもかかわらず、時間はいつも一方通行だ。真に反復することなどあるのだろうか。固く冷たい地面に座りこんだまま、馬鹿だなあと思う。咎められてもまだ諦められず、変われないままでいる。きっと彼女なら嗤うのだろう。橋はどこにあるんだろう。