嘘つき

 

 閉ざされた部屋の中で強い風の音を聞いた。春が来て花も咲き始めたというのに、未だにひとりだけ雪の日の中にいた。こわいという小さな声は届いていただろうかと思う。届かなかっただろう。
 遠く流れていくものをとどめたいと思うのは、それがとどまることのないものだからだ。叶わない願いごとばかりしている。
 
 嘘をついてまで守りたいものは何ですか。問うまでもなく、守りたいのは、最終的にはその人自身なのだろう。そうしてついてきたいくつかの嘘を、もう忘れてしまった。嘘つきの義務は、嘘が露顕しても絶対に嘘だと認めないことだ。嘘をつき通すことで本当になる。こんな幼稚な理論で愚かしく武装する。早く雪が降ればいいのに。