早足で歩く夜、空を見上げると雲の隙間に明るい光が見えたから、ねえ月が、と言おうとして口をつぐむ。地下へ潜る。先を急ぐ。地下へ、地下へ。電車がホームに入ってくる。その風に吹かれる瞬間、浅く息を吐く。
 足を止めて月を眺めるには時間が足りない。いつも、いつも。