遠雷

 
 全て無くなるかもしれないというリスクを犯してまでそうする価値があるのですかと問いたい。いや、いつか問うたら曖昧な答えが返ってきたのだった。責任を負えないことを自覚しているからそう答えるしかないのだ。ずるい人ですねと責めたのだった。
 夜の車の中で、海の向こうに雷が落ちるのを眺めていたことを思い出した。いつもは穏やかに笑ってるその人は、抱えている問題を静かに語り出した。気の毒に、と思う一方、残念だけれど私は誰の何の力にもなれないのだということを強く思った。他者の悲しみや苦しみに寄り添うことができるほど、私は強くない。それでも、と強く思い、それでも、と力になろうとするのは愛なのだろうか。誰かに注ぐほどの愛を持ち合わせていない。誰か自分を助けてくれたらいいのにと下を向いて小さく願うだけだ。遠くの雷に怯えて耳を塞ぐように。